第5回は「内装材」について考えてみたいと思います。
内装材、つまり壁紙や床は直接触れる場所ですから、気になる方は多いと思います。やっぱり新しい方が良いとか、キレイな方が良いとか、そういった気持ちになるのも当然だと思います。
でも、ここでは「新しい」「古い」。「キレイ」「汚い」という二元論的アプローチから抜け出して、ちょっと別の視点から考えたいと思います。
■「汚れる」材料と「老いる」材料
付き合いのある建築家の方が面白いことを言っていました。
その方が言うには「汚れる」材料と「老いる」材料があるんだそうです。
前者は「経年変化=汚れ」になってしまう材料、後者は「経年変化=美・味わい」になっていく材料なんだそうです。
日本の特にディベロッパーが供給する住宅は「汚れる」材料しか使っていない、だから長く愛されないんだ、と。
なるほど、と思いました。
例えばビニールクロス、汚れこそしますが材料自体が美しく経年変化するということはありません。
そもそも古くなったら貼りかえることを前提にしていますから当然といえば当然です。
例えばウレタンコーティングされたフローリング、木がダメになるより先に、表面のウレタンが剥がれてきてみすぼらしくなります。掃除はしやすいですが、材料それ自体はまだ使えても、張り替えてしまいます。
環境負荷も高いですし、こういう消費スタイルは今っぽくないですよね。
そもそも、人が使うものですから古くなるのは当然です。古くなるたびに交換していたらコストもかかるし、環境負荷も高い。だから、発想を逆転して「美しく古くなる」材料を使うべきだと思うのです。
そして、我々も古い=汚いという概念を捨ててみる。
例えば床には無垢のフローリングを使ってみる。
ウレタンコーティングではなく、経年変化するようにオイルフィニッシュなど、自然の風合いを残してみる。写真はあえて古いフローリングを新築に使った例です。
床に古いゆえの傷や凹凸があります。こうやって見ると、古い=汚いではないということがわかっていただけると思います。
ちなみに、我がリノベ百貨店のオリジナルリノベーションeims craftが無垢のフローリングにこだわる理由の一つは、経年の変化を楽しんでいただきたいからです。
■原状回復
日本の住宅に「汚れる」材料が使われる理由の一つに、業界の構造的な問題があります。
賃貸住宅を退去する際に、入居時点の状態に戻さなければならない原則、いわゆる「原状回復」というものです。
オーナーさんから言えば、退去時には必ず壁紙などを新しいものに交換するわけですから、「美しく古くなる」のを待つ必要もないし、交換するなら安い材料の方が良いわけです。
借り手側だって、元に戻さないといけないのであれば、できるだけ掃除が容易で汚れにくいものが良い。
「味わい」なんていう、汚れかどうか紛らわしいものは不要なわけです。
実はこの原状回復システムは日本独特の文化で、私はこれこそが日本人が住宅を愛さないマインドの根源になっているのではないかと思っています。いくら汚しても最後は新品に戻る。
逆にいくら大事に使おうが、退去時には新品に交換されてしまう。これでは、「美しく」使おうとは思えないですよね。
ひとつ面白い賃貸物件を紹介したいと思います。
2004年にリノベーション竣工した「ROOP虎ノ門」という物件です(残念ながら現存していません)。
何が面白いかと言うと、原状回復義務がありません。
つまり、部屋の中をどう使っても良い。改装しても良い、棚をつけても良い、ペンキを塗っても良い。で、退去時にはそのまま出ていってOK。
ただし、一つだけ条件があって、次の入居者を見つけてこないといけません。次の入居者が見つからない場合は原状回復しなければいけません。最初はオーナーさんが心配しました。
「滅茶苦茶にされちゃうんじゃないの?」って。でもやってみたら、どの入居者さんもすごく大切に使ってくれました。
何故か?理由は2つで、一つは原状回復費用を浮かせたいというモチベーション。
次の入居者が借りてくれるようにするには、美しく使わなければなりません。もう一つは自分が手を掛けたものだからこそ、大事に使いたいというモチベーションです。
自分で改装したり、棚をつけたりすることで、愛着が湧いたわけです。原状回復義務を免除したことで、逆に「大事に使う」モチベーションが芽生えるという結果になりました。
まだまだ少ないですが、少しづつこういった住宅は増えています。理解のある大家さんも増えています。気に入った家を長く大事に使う。そんな文化を日本に根付かせたいですね。
Text:K.Asai
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